第8話 下川茉莉(「地に落ちて死なずば」)
2026/08/25 09:36 公開
当たり前みたいに呼び捨てされたときたぶん五センチくらい浮かんだ(埃『限界OLクソ短歌』)
■評
いや、別に含みとかはないんですよ。
岡本かの子とか山崎方代とかの後に突然『限界OLクソ短歌』を出してきたからと言って、茉莉さんに何か思うところがあるとかそういうわけでは。ええ。ほんとに。…………ほんとだよ??(小声)
……知子さんですか? 引いたのは枡野浩一ですが、多分「わたしだけせんぱいとお揃いですね!」ってにこにこしてると思うので大丈夫だと思います。つよい。
私見ではありますが、4人の中で一番「恋をしている人」が茉莉さんであると思っています。
メアリ妃としては四妃の中で最も早くグロワス十三世の子を産み、今世では最も社長との付き合いが長く、どちらの立場でも最年長の彼女ですが、その振る舞いや心性はいつもどこか「恋する女の子」を思わせます。そして残念ながら、恋をしている人というものは、往々にして傍から見るとちょっと色々アレなものです。
……いや、これでもだいぶ言葉を選びましたよ? でも曲げがたい事実として、茉莉さんの行動って、いろいろこう、なんというか、アレですよね? いや、ほかの3人+1人はアレじゃないのかというとそんなことは全くないのですが。何かこう、茉莉さんだけ明らかに青春スーツ(©ハチミツとクローバー)が脱げてない気がするんですよね……。
恋というものは、あらゆる芸術のテーマとなり、技法の限りを尽くしてその美しさを描かれてきたものですが、同時にその残酷さや醜さについても繰り返し表現されてきました。
渦中にいる本人は至って真剣で、自認としては劇的かつ運命的、甘美な瞬間を生きているとしても、概ね他人から見ると空回ること甚だしく、ありふれていて、滑稽で、無様です。
にもかかわらず、そのありがちで陳腐な喜劇の中に、時に誰もが目を留めずにはいられない光やぬくもりを見ることがあります。それ故簡単に思い切ることができない。だからこそ恋は厄介です。
よって、場数や年月を重ねるほど、人は苦笑や冷笑とともに恋というものを眺め、先回りして嘲笑うことで自分を守ることに腐心するようにもなります。しかし茉莉さんの場合、前世の分の経験の積み増しがあってさえ、ずっと少女のように、ただ想うことにすべてを傾け続けています。そしてそのひたむきさによって、社長がこれまでずっと守られ続けてきたことを思えば、もうこちらとしては「とりあえず社長はそこに正座してください」としか言えることがありません。いや、あのさあ、社長、お前ほんとにさあ!!(胸倉)
家庭教師のお兄さんに「下川さん」と呼ばれていた彼女が、初めて「茉莉」と呼ばれたのはいつだったのでしょうか。そのとき彼女の中に生まれた嵐について思えば、おそらく五センチどころか空でも飛びかねないような気持ちだったことと思います。
社長と過ごす中で生まれた、そうしたいくつもの熱や光が、これからも彼女の背中を押し、足元を照らし続けていくのでしょう。