タテガキ

6アナリース・エストブール(「地に落ちて死なずば」)

2026/08/04 11:44 公開

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一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております(山崎方代「こおろぎ」)




■評
 俎上に上がった瞬間、ある種の人々が理性を失いがちな話題というものがあります。恋愛というものは、その代表的なひとつだと思います。
 匿名のウェブ上のやりとりにしろ、リアルの人間関係で交わされる会話にしろ、話が色恋に及んだ瞬間、踏み越えるべきでないラインをあっさり踏み越えた発言をする人がいて、それを許容する人がいる。そしてそれに、己の領分を踏み越えて噛みつく人がいる。
 そうしたやりとりを見ていると、多くの場合、それが恋愛や性に対する興味を超えて、話者の社会的評価や承認欲求、抜きがたいコンプレックス、過去の経験と結びついて、もともとの話題とは別の何かに化けてしまっていることが多いように思います。恋というものは、そうした化け物に変化する要素を潜在的に持っているものなのだと思います。

 『地に落ち』の四人も、今までの人生で、おそらくそうした化け物と無縁ではいられなかったことと思います。本人が望まずとも、我々が生きる社会はそれを勝手に押し付けてくる場所でもあります。『若く美しく、多くに恵まれた女』であるのなら、なおさら。
 おそらくそのことに対して、最も自覚的にならざるを得なかったのがアナリースさんです。
 「幸せな女 1」で書かれるとおり、彼女が「アナリース・エストブール」であるがゆえに、彼女を求める人は多くいます。彼女はそういう属性を備えた人間として在り、それを求められる社会に生きている。そしてそれがどういうことなのか――世間がいうところの「幸せ」がどういうものなのか、彼女はよく理解している。その上でそれに興味を持たない。
 何故か。
 化け物になってしまう前の、本当の意味での恋というものを、彼女は知っている。
 そしてその恋が、今の彼女という人間を作り上げる、けして無視できない要素となっているからです。

 なお完全に余談ですが、『暗君』2巻特典の書き下ろしSS「空想と現実:アナリゼ」を読んだ際、「意志の勝利」の「私に教えて?」の本当の意味を理解して横転しました。
 ははは社長、貴様貴様貴様(胸倉を掴んで揺さぶる)。