タテガキ

3第三話 Time Remembered

2026/07/16 17:55 公開

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 週末はどうせ台風の後でひどく増水していることだし、もう一本飲んでも良いなと思ってコンビニに歩く。ああ、釣りのために早起きしなくても良い、ということね。日付が変わる頃になっても空気はどうしようもなくぬるい。北海道旅行から帰ってきて一か月くらい過ぎた頃。
 母が釧路の出身なのもあって、農家をやってる叔母夫婦のところで長期バイトをしていたこともある。その夏を思い出すような冷涼な、素晴らしい道東の気候だった。今回の旅行で完全にスポイルされちゃったなと、道すがらじわっと吹き出す汗に帰ってきた現実を思い知らされている。
 ところで、コンビニで買える例のワイン。「もふもふ」のことだけれど、時々長いこと棚に置かれていたのか妙な味がすることはないだろうか。院生の時、学会で泊まったホテルの近くで買ったミニボトルなんて、アルミのスクリューキャップが固着していて、開けるのに難儀したくらい。いや、それは古さとは関係がないか。こんな話じゃなくて……。

          ♢
 先生は……、ああそうだ、前に書いた時に「社長」なんて筆が滑ってしまったのを思い出した。まだ確定的ではない、でもかなり真に迫った推測だと思う。声は、かなり似ている。そして「今日は久々に何々の時計をしているんですよ~。最近ゴツめのばかりつけていたけど、金無垢、金無垢はねぇ、やっぱりいいですね」などとスペースで語っている「B社の時計」が社長と一致しているのでは?という疑いがあったんだ。なぜほとんど会ったことがない社長の「今日の時計」を把握しているかというと、つまりその……、一度、社長の時計の話をした総務の先輩が、僕のことを時計趣味の人だと認識したのか、ちょくちょくリークしてくれるからです。でもあれは秘書課を急に辞めた人がいたんだけど、その人に当てこすってるような感じがあって、ちょっと気まずかった。
 スペースについての説明がまだだった。SNSに肉声を乗せて太平洋すら超えて会話ができるツール。それのこと。ああそうだ、同志だなんて不自然な言葉も書きつけていました。同志というのは、(先生と)先生の作品に「脳を焼かれた」人たちのSNS上の「紐帯」のこと。これは本当に不可解な状況だと思う。いまどき、広報のためにも個人アカウントを持って情報を発信したり、読者と交流したりする作家さんは少なくない。読者も返事をもらえたら嬉しいよね。
僕も存命の作家が書いた小説を読んだ経験が少ないから、まさか作者本人に感想の「つぶやき」をシェアされたりするなんて思いもしなかったから。それに先生はよくある同人二次創作のお作法に不慣れだからか、同志達が際どいかもしれないと許可を求める(!)コメントに対して「いいですよ、むしろ読みたい」などと返事するくらいだし。二次創作はお目こぼし、決して作者の目に触れないように、じゃなかったの⁈
 しかも、他者に干渉しないかわりに他者からも一歩引いた立場を崩さないような社長が! (いや、もう僕には社長にしか思えなくて、つい……)

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 ああそうか、自他を線引きしているからあなたの自由なんですよ、と委ねているのか。他者は他者、何をするか、何を思うかは本質的に自由。過去に出版経験があるプロが、ほんの遊びで書いた文章を出しているだけ、という考え方は分からないでもない。いつも懸念を表明するとしたら、版元に迷惑がかからないか、お友達の商業作家に迷惑がかからないか、そういう内容ばかり。あ、ひとり怪しい人気小説家もいるよね?

          ♢
 時計の話は僕からしたら雲の上みたいな金額が単位として語られていて、笑い話でしかないんだけれど、先生は意外にも安価な時計にも熱さがある話をする。例えば国産の二〇気圧防水と表記されたダイバース、セールで二万円しないこともある時計。そんな時計でも、「実用時計はスペックに偽りはないはず。道具として信頼をおけない物は淘汰されますから」か……。
 あと、「普通のモデルは安い」デジタル時計に妙に執着があったりとかね。

 でもね、何で社長はスペースなんて始めたんだろう?