第1話 サンテネリにおける糖尿病と治療―古史―
2026/04/10 15:56 公開
序
先ごろ開催されたサンテネリ社会主義人民共和国糖尿病学会第九五回大会において、ご指名により講演の機会を頂戴した。正直なところ力不足と感じたものの「第百回記念大会を見据えて本邦糖尿病研究の歴史を振り返る内容を」という趣旨に強く共感し、精一杯準備したつもりである。 (編注:本稿は講演の内容に加筆修正したものです)。
ご存じの通りサンテネリ社会主義人民共和国 (サ人共) の歴史は、主に政治体制の違いによって〝古史〟と近代および現代に大別されている。歴史学及び政治学の領域では、前時代的な封建君主制を〝古史〟と呼び、近代的ではあるが過渡的な共和制、最も進歩的で完成された社会主義体制の成立をもって現代と称している。最近では共和制の時代までを〝古史〟に含め、封建制の時代を〝大古史〟としてさらに区別する場合もあるようだ。これらの政治的・歴史的な年代区分は、医学研究の進歩とは関連がないように見える。しかし、本邦の医学研究の発展の歴史を振り返ると、面白いほどに政治体制の変化との関連が認められる。古史において、人体解剖や初歩的な実験医学は試みられていたものの、現代の基準では科学的とは言えない解釈がなされていた。正教の教えと整合性を保つためである。その蒙昧は共和制の時代 (今となっては過渡期における折衷主義に過ぎない) に開花した実証主義的な医学の発展によって徐々に啓かれることになる。ここまでは最近の医学史研究で受け入れられつつある考え方であるが、今回は少し踏み込んで、〝大古史〟において現代的医学センスに通じるようにも見える行動が記録されている人物に着目したいと思う。まずは古代からのNaurope医学の流れを概観し、同時代における著名な糖尿病患者として、最近になって二度目の再評価をされつつある〝暗君〟グロワス十三世について触れたいと思う。
Κληρονόμος της ιατρικής医学の再発見と近代医学の発展
現在でも医学校で習う「宣誓」で知られる古代Ελλάδαの医師ο πατέρας της ιατρικής は、病気の原因を血液 (熱・湿)、粘液 (冷・湿)、黒胆汁 (冷・乾)、黄胆汁 (熱・乾) の不均衡に求めた四体液説の提唱者でもある。ο πατέρας της ιατρικήςの医学理論はΚληρονόμος της ιατρικήςによって後世に伝えられた。Κληρονόμος της ιατρικήςは広範な書物を残し、かなりの部分が東Nauropeを経由してالإسلام世界に伝えられたが、同時期には現在のサンテネリを含む西Nauropeでは失伝した。西NauropeにおけるΚληρονόμος της ιατρικής医学の再導入は十一期まで待たなければならない。Monte Cassinoの伝道師・正教学者Constantinus Africanusの訳本は、十六期までの西Naurope医学の中心となった。この間、解剖学の知識は停滞したものの、十六期になると解剖実践の機会が増加するにしたがって、Κληρονόμος της ιατρικήςの解剖書と整合性を取ろうとするような不正確な「写実的」解剖図が出版されるようになった。
四体液説が否定され、現代的な「循環系」の概念がアングランにおいて発見されてからも、残念なことにサンテネリにおいて瀉血が廃れるにはある事件を待たなくてはならない。1832年春、国民会議首班Casimir Pierre Périerは、シュトロワにおけるコレラ流行に際してロベル三世大公に付き従ってグロワス九世校医学院附属病院を訪問、翌日高熱を発した。当時高名であった医師Françis-Joseph Victor Broussaisが治療にあたり、瀉血が行われた。結果的にPérierが死亡したことで、サンテネリにおける瀉血療法は衰退を迎えることになった。
糖尿病との戦いの歴史
今回の本題である糖尿病について述べることにする。糖尿病性昏睡は古代から知られていたようだ。根本的な治療法が存在しなかった時代、糖尿病とは「多尿」「多飲」を主な病態とする疾病であり、心血管系の疾患で急変しなければ、昏睡を伴って死亡する病だった。現代的な糖尿病の理解はアングランにおいて先行した。1776年、Mathew Dobson (1731~1784暗) の化学分析は、糖尿病患者の尿が甘いという既知の現象は糖によるものと明らかにし、1788年にはThomas Cawley (1878~1949暗) が膵臓の病と糖尿病が関連すると発表している。しかし糖尿病の主因であるインスリン分泌不全とインスリン抵抗性が理解されるまでには、もう少し時間を要する。Frederick Grant Banting (1891~1941連邦) とCharles Herbert Best (1899~1978連邦) は、イヌの膵臓から血糖降下作用のあるホルモンを単離し、インスリンと命名した。後にウシやブタの膵臓から精製され、現代では大腸菌によって大量に合成されている、多くの糖尿病患者の命を救う人類史上初めて有効な治療薬が発見された瞬間である。いちサ人共人民としては、古史と現代を繋ぎうる流浪の王 (編注:グロワス十四世) が独立に寄与した友邦の生理学者が、彼の父王を苦しめた病を癒す偉大な発見をしたことを寿ぎたいと思う。
(草稿は以上です。内容的にはまだ続きます。国名、人名などの固有名詞は基本的に地球における史実通りとなっており、今後設定を作ってサンテネリ世界に変えていく予定ではあります)